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寿司

加藤知也


約 5590

空也行

口から仏を吐き続けている。

「大丈夫ですか?」

紺色のブラウスにパンツスタイルのオフィスレディーが心配そうに声をかけてくれる。

「大丈夫です、なんでもありませんから」

と、答えようとした瞬間。

ポ、ポ、ポ、ポ。

また一尊、仏を吐き出してしまった。

阿弥陀如来であった。

「ひいっ」

悲鳴を上げるオフィスレディー。

阿弥陀如来はゆっくりと起き上がると、首を百八十度回転させてオフィスレディーを視た。そして、

「きゃあっ」

突如。オフィスレディーに抱きつき、後ろから両手で乳を揉みしだく阿弥陀如来。

「やめないかっ」

と制止する間もなく、

ポ、ポ、ポ、ポ。

順に多聞天、渡海文殊、十一面女神、大日如来。

私は心の内で、

「なんまんだぶ」

と一度呟いて、しばらくその場に蹲った。

 

 

 

Dragon

文月。戌二つ刻。

反対から歩いてくる中年の男。

目が合うや否やカマキリがセミを捕らえる形、すなわち蟷螂拳の構えをとる。

これに対して私は極端ながに股になり、腰を深く落としゆっくりと回転しながら両脚を交互に上げる、カポエラの舞のようなことをして対抗した。

一定の距離を保ちつつ、先手を窺う両者。

堪りかねた見物人のうちのひとりが間に割り込んできて、

「指導っ」

握り拳から人差し指を伸ばす。

男はファイティングポーズのようなことをして戦う意思を見せ、私は年度末から温めている新規軸について思いを巡らせた。

 

 

 

桃の勲章

鼠を擬人化した着ぐるみが手招きする方へ、私はセグウェイに乗って突進していた。

大橋が見えていた。

すると、脳の中の、大脳皮質とかそういうところから、

待たんかれ、待たんかれ、待たんかれ、と、クルクルしながら白と赤のストライプの物体が飛来してきた。

「待たんかれ」

「トルゥルゥ、トルゥルゥ、ピタッ。なんじゃらホイ」

「あの大橋を渡っては駄目」

「いいえ、渡ります。何故なら私は今覚醒剤が決まってと

ても気分がいいから。ううっ、いく、いく、いくー」

すぱん。白と赤のストライプの背後にまわり、喉笛に鎖鎌を当てて真一文字に掻き切る。

ちゃーちゃちゃちゃーちゃーちゃーちゃーちゃーちゃー、ちゃーちゃちゃちゃちゃ

ちゃちゃーちゃーちゃちゃーちゃーちゃーちゃー、ちゃー。

寿司というのは果たして健康に良いのだろうか?

 

 

 

ネオヒルズ族

「臭っ」

エントランスのドアーを開くと、けもののような匂いが鼻の奥を劈いた。

それで四十畳のリビングに目をやると、ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いつ、むぅ、数え切れないくらいの怪物、牛の体に人間の顔の半人半牛が、皆一様に西日の方を向いて黄昏ていた。

「ひっ、人ん家でなに黄昏とんじゃっ」

激烈に腹が立った私は十八畳のクローゼットへ行き、汎用機関銃を持ってきて、

「おちょくっとったら殺すぞ、こらあ」

半人半牛目がけて無茶苦茶に銃を発射させた。

ダルダルダルダルダルダルダルダルダル。

「はあっ、はあっ、ざまあ見さらせ」

死体をまたぎこし、胴体に、朴木原、とペイントがされた半人半牛を足で蹴ると、朴木原はまだ息があったのか、目と目が合って、

「古民家風パスタ、って、げっさ倒錯してますよね」

と、台詞のような口調を放ち、そのまま絶命した。

 

 

 

主との旅

霧雨が降るなか、水面から二十糎ほど浮かんで、つつつーっ、と滑るように進んでゆく主。

それを、腰まで水に浸かりながら追随する、私。

「あの、ちょ、」

「しーん」

「あの、ちょ、ちょっと、ホントに、ちょっと待って」

「なんだよ」

「はあっ、はあっ、あのもうちょっと、はあっ、はあっ、ゆっくり、はあっ、ゆっくり進んで」

「無理」

「そ、そんな…」

「にやにや」

「にやにや、ってなんですか。それじゃあせめてどこに向かっているかだけでも教えてくださいよ。そうじゃなきゃ僕はもう一歩も動かない」

「あ、そう。さいなら」

「嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘。嘘です。動きます。動きますから教えて」

「ははん。俺はどこにも向かってないよ」

「はあ?」

「俺はどこにも向かってねえ、つってんだよ」

「どこにも向かってない?なんだよそれ、じゃあ俺はなんの為にあんたについて来たんだよ、俺は、俺はあんたが俺を導いてくれる感じ感を俺に出してたからここまでついて来たのに、騙された、騙された、騙された、ふぐぅ、ぼええっ」

「泣くなっ。それでもなあ、俺たちは前に進むしかないんだよ。フライパンに水百八十mlと麻婆豆腐の素一袋入れて、中火で煮立たせるんだよ。豆腐は賽の目に切って、トロミ粉は大匙二の水で溶いておいてね」

「何を言ってるのか全然わからない」

 

 

 

カルトヒーロー

「五年前に震災があったじゃない?あの震災のことも尊師は宇宙で唯一人予言しておられたのよ」

「マジですか?」

「マジマジ。あ、どうだった?」

「いま本部と連絡が取れて、尊師は是非あなたにお会いしたいと仰られているそうです」

「すごーい」

「マジですか?」

女は二人に増えていた。

「さっきも説明したと思うけど、尊師が直接お会いしてくださるなんて、本来であれば絶対に有り得ないことなのよ。ね、有り得ないよね」

「奇跡かも」

「マジですか?」

「そうそう。私だって、去年の祝典のときに御尊顔を拝して以来、一度もお見かけしてないんだから。ね、私お見かけしてないよね」

「皆無ですね」

「マジですか?」

「マジマジ。そうだ、もしよかったらこの後道場を見学しにいらっしゃらない?ここでこうやって説明するよりもそっちの方が早いと思うの。ね、早いよね」

「めっさ早かろうもん」

「マジですか?」

 

 

 

社会の敵

友の無実を証明する為に、私は埼玉県越谷市南越谷で整体とリフレクソロジーの店をオープンさせた。

「はあ?あんなんで三千五百円も取るのかよ。有り得なくね?」

四十五分コースを終えた茶髪のワンレン、血膿色の布を羽織った小太りの女が受付に来て言う。

「へえ、当店はどなた様もこちらのお値段でやらせて頂いてまして」

手の平で料金表を示す私。

「マジかよ、つかふざけんなよ、これってぼったくりじゃん」

「いえ、決してそのようなことは」

「とにかくウチはこれしか払わないから」

そう言って小太りはトレーの上に数枚の札を投げつけた。

十バーツ紙幣だった。

「あ、あの、お客様…」

「うるさいっ。あったかくして寝ろよっ」

一人残された私は、紙幣の皺を一枚一枚丁寧に伸ばしながら一言、

「駄目かもしんねえ」

 

 

 

JUSGO

焚き火を前に空腹。

この七日間で口にしたものといえば、おいしさは素材から、カップスープ。とろ~りミルク仕立てのきのこのポタージュ、一食あたり61kcal、ザッツオールである。

寒風に震えながら両手で膝頭を抱いて凝縮しているとそこへ、二足歩行、手に新鮮な川魚をぶら下げた熊、よく熟れた、ショッキングピンクの木の実を背中に背負った狐、兎の三頭が和気藹々と、時に腹を抱えて爆笑するなどしながら、横並びになってすぐそばを通りかかった。

「あの」

「ああ?」

と熊。

「初対面の方にこんなお願いをするのは大変不躾なのは重々承知しているのですが、もしよろしければ皆様のお持ちになっているその食料をほんの僅か、ほんの僅かばかりで結構でございますので、この私奴に譲っては頂けないでしょうか?」

「無理」

「あかんあかん」

「マジキチかよ」

 

 

 

ITAKO

「東西南北に門があるから、あなたは好きなほうの門をくぐってみたらいいよ」

気さくな、ほんと、気さく、って感じの、髪の毛をラスタマンのように後ろで束ねた黒人男性の案内を受けて、私は、あ、そっすか、じゃあ遠慮なく、と言って単身廃墟の砦の中へ入りごんでいった。

東の門から出ると、畸形の老人に出会った。

南の門から出ると今度は酷い病人、また、西の門から出ると死人を運ぶ葬列に、それぞれ出会った。

そして最後に北の門から出た時に、案内の黒人自身が筵の上に座って、巨大なボングを吸っては口から大量の煙を吐き出していた。

「お疲れ、どうだった?」

「いっやー、ハンパなかったっす。マジ感動しました。ありがとうございます」

「やったじゃん。よかったじゃん」

「どもども。それより、それ、なにやってんすか?」

「ああ、これ?これはね、大麻草を吸引してるんだよ。やってみる?」

「えええええっ、いいんすか?」

「いいよいいよ。はい、じゃあこれね」

と言って黒人から巨大なボングを渡された私は、吸い口に口をつけて大きく息を吸い込んだ。

 

 

 

Once Upon a Time in China

四方に杭を立てて縄で囲っただけの簡易なリングの中にその他数名と共に入れられて、湖のような目をした男に目隠しをされる。そして片方の手を後ろで縛られ、もう片方の手に拳闘で使用するグローブのようなものをはめられて、

「Le Arcaro molomo 」

口の中に指が入ってきて、舌の先に甘いような苦いような感触。唾液と一緒に呑み込んだ直後。

ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ。

喇叭の音、高らかに鳴り響き、人間が忙しなく移動する気配。

私はグローブをはめた方の拳を顎の下で構え、摺り足でじりっ、じりっ、と前へ進んでゆく。

 

 

ロフトプラスワン

「はっきり言っていいですか?FUCK ですよ」

山羊の頭に人間の体、上半身は裸のマッチョ、左右の肩甲骨から巨大な黒い翼が生えていて、下半身はサルエルパンツの腰穿きスタイル、といった異教の神は、怒張させた陰茎を丸出しにしながら滔々と語り始めた。

「だってそうじゃないですか。増税分は全て社会保障の充実に当てるとか言っといて、社会保障、どんどん削られてるじゃないですか。それにあいつら経済に行き詰ったら今度は武器輸出に手を出して、海外に武器、横流ししときながら、表向きでは国際平和訴えてるんすよ?もう、やってること無茶苦茶じゃないですか。無茶苦茶やんけ、なあ?」

興奮した異教の神は、ぶるるっ、鼻を震わせて、ばさっ、ばさっ、二度翼をはためかせた。

私はうんうんと頷きながら、「ワレ、異教の神とちゃうんけ」と心の中で突き込みを入れた。

 

 

閃光魔術

「観光案内三十分三千五百円六十分六千五百円八十分九千円百二十分一万二千円」「カラオケ六十分三万円」などと書かれたフリップを持ったJKが、太腿を露にして数米おきに等間隔で立っている、なかに、「シャイニング・ウィザード千五百円」という文字を見つけた私は、そのJKに声をかけた。

「あのー、いいですか?シャイニング・ウィザード、一回、お願いします」

紙幣と硬貨を手提げ金庫に入れたJKは、舗道の一隅を指差し、

「ここで片膝立ちの状態になってください」

言われた通り片膝立ちになると、

「動くと怪我をするので決して動かないでください」

と言い残し、JKは長い、長い助走を取り始めた

 

 

 

セイトー

パーン。パーン、パーン、パーン。

「会長っ」

「会長っ」

「会長っ」

「ワレ、なにさらしてけつかんのじゃあっ」

「待たんかい、こらあっ」

「逃がすな、追えっ、追えっ」

「捕まえっ」

「おらあっ、止まらんかい」

「殺すぞ」

「だぼがっ」

「あっち、あっち回れ」

「どかんかいっ」

パーン、パーン。

「うわっ、うわっ、撃ってきよった」

「おんどれっ、舐めとんかあっ」

「殺せっ、殺せっ」

 

 

 

スーパー天女

慣れた手つきで洗面器の中のローションをかき混ぜながら、女は続ける。

「日本学生支援機構?あんなのサラ金と一緒よ。日本も早く給付型の奨学金を導入するべきだわ。だって先進国の中でも日本くらいよ、給付型の奨学金を導入していないの。

それと授業料の無償化よね。知ってる?日本の大学の授業料は世界で最も高いのよ」

言いながら女はローションを手で掬い、マットの上に二、三回垂らすと、体を使ってマット全体に万遍なく広げ始めた。

「とにかく国にはもっと教育への投資、若者への投資に力を入れてもらいたいわ。あ、うつ伏せになってね。それじゃあ失礼しまーす」

「おほっ」

 

 

 

決定的瞬間

もしもこの舟で君の幸せ見つけたら

すぐに帰るから僕のお嫁においで

「お前、ケータイ鳴ってない?」

「あ、ほんとだ、もしもし、あ、どうも、え?いますか?いまだんじり曳いてます、はい、だんじりです、え?明日から会社こなくていい、またまたー、何言ってんすか部長、え?何?聞こえない、もしもし、もしもーし、もしもーし、電話切れちゃったよ」

「どうしたの?」

「なんか、お前明日から会社こなくていい、だってさ」

「それって馘ってことじゃん」

「そうなの?」

「そうだよ」

「俺、会社馘になっちった。たはは」

「げらげらげらげら、うわっ、危なっ」

「うわっ、うわっ、うわっ」

急なカーブを曲がりきれずに横転。猛スピードで爆走するだんじりに俺、轢断されて。