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知らずにしていた健康によくないこと

中山明俊


約 7057

体験レポート「薬は常用しない方が体調によい」
昨年末、きつい風邪の症状が出て、全身の節々に強い痛みを感じ、いつもの風邪の症状と違うので大病院へ行き治療を受けた。風邪薬の外に抗生物質が処方された。
これで安心かと思っていたら、全身に激しい悪寒を感じる。それが数週間続いた。風邪は回復したものの、悪寒は抗生物質の強い副作用らしい。「副作用のない薬はない」これがドクタ-のコメントだった。
過去、人間ドックの判定で糖尿病とコレステロ-ルの薬を数種、クリニック専門医の処方で長期に継続して服用している。高血圧薬も処方されているが自分の判断で飲まずに済ましていた。確認されているデータでは基準値内であると判断していたからだ。
 
かねて人間の身体の本来持つという自己回復力に期待して、薬に依存しない健康体を持ちたいと思い続けていた私は、80歳を迎えた機にこれからの人生を如何に暮らすかと考え、多くの医薬書を読み漁った。今回の全身悪寒の経験をきっかけに「薬漬け生活」から脱却したいと決意した。
 
この自らの人体実験を初めてから半年になる。この間、食事療法・運動療法をキッチリとやってきた。食事は野菜をまず充分に、各種たんぱく質もたっぷり、糖質は半減を励行した。運動はややきついぐらいの内容をやや多めに実行し、一周り若い仲間たちにも伍して楽しんでいる日課を続けた。
 
その結果、体重は6㎏ほど減量したが、体調は半年前と変わらず、運動も日常生活も全く支障は出ていない。
今まで飲み続けてきた薬を極力止め、自然回復を願い、ひたすら食事と運動の質と量に気を配り、家内と家族の協力を得て、このような生活習慣の効果が重なって良好な健康が取り戻せれば、私の薬漬けになりかけていた余生の、エンデングプランは成功してゆくだろうという確かな期待が濃厚になってきた。
 
人体実験のきっかけは「副作用のない薬はない」だった
このレポートは、数人の高齢の仲間が3か月毎に開く例会で友人が発表したものである。このレポートの中で、彼はドクターからかなりはっきり「副作用のない薬はない」と断言されている。これは何を意味するか?副作用とは、薬の本来の効能以外に体にとって好ましくない症状をもたらすことである。つまり、薬を飲むと必ず悪い症状が出ると聞いて私は「この薬を飲むと胃が悪くなるから、胃薬も出しておきましたよ」というはなしを思い出した。
 
こうしてみると最初の症状はひとつであっても、数種類の薬が処方されることは当たり前になっていることを意味する。最初の薬の副作用を消すために次の薬を飲むのだから副作用の連鎖が起きる。本来はわずかな体調の不調だけであったのに、副作用の連鎖が本格的な病いを招く可能性が高いと私は危惧する。
 
発表してくれた友人も「糖尿病とコレステロールの薬、数種類を飲み続けている」といっている。こんな生活を続けていたから自分の体がおかしくなったんじゃないかと、「今までに経験したことのない全身の悪寒」で感じたわけだ。「80歳になっている体を大事にしなければいけない」と思い、自分で体調維持の仕組みを学習し、自分で実行しようと発想したことはすばらしい。そうしてその到達点が「自己回復力」に着目することであると気づいたのは良策である。
 
自然治癒力はどれぐらい頼りになるか?
私は以前から、「自然治癒力」に関心があった。具体的に言えば、怪我をしても傷口を清潔にしていれば自然に治っていく。また骨折しても正しい位置でギブスによって固定していれば、骨の成分が骨折箇所を自然に修復する。こんなことを体験的に知っている。慣れ親しんでいる生活の中で静かに体内で着実に行われいることだから当たり前に不思議なことだとも、なんとも思わなかったが、よく考えてみると、「すごいことが行われている」と改めて思う。
このようなすごいことを生物はどのようにして手に入れたのだろうか?
 
この原理は「ホメオスタシスの原理(恒常性機能)」と名づけられている。
(ホメオスタシスの具体例は体温一定の仕組みや細胞置き換わりなど)
 
つまり「生物体内で何か外的要因で変化が起きたとき、必ず原状に戻る原理が働いている」というのである。このような仕組みを人間はじめ多くの動物はどのようにして身につけたか。このことを納得できるように説明している文書には私はまだ出会えていない。言い換えるならば、地球上の生物はこのような自然治癒力を身につけたからこそ、現代まで生き残これたのであって、そうでない生物はすでに絶滅してしまった、という方がわかりやすい。
 
ここで考えてみたいのは「ホメオスタシスの発生の謎」の解明ではなく、自然治癒力がどのような仕組みに支えられて機能しているかの確認である。自然治癒力が生命維持の役割を確実に果たしている仕組みを解き明かし、自然治癒力に頼って健康維持を進めれば十分に生命を全うできると結論付けたいのである。
 
では、「私たちの自然治癒力はどんなシステムに支えられて働いているのだろうか?」それは、血液循環であったり、神経システムであったり、免疫の働きであったり、食物消化の臓器群の働きであったり、つまり生理学で学習する人体機能の全てである。しかし、血液循環は酸素や栄養を血液に乗せて体の隅々まで運ぶことは常識として知っている。その酸素や栄養をどのように運ぶか、末端の臓器へ運んだとき末端の臓器ではどうやって体の構成要素に組み立てているか、食べ物が噛み砕かれて消化され最終にはエネルギーとなって消費されるにはどのように食べたものが他の物質に変換されるかなど、ほとんど説明できていない。
 
つまり、これが働くから自然治癒力が確かに病気から回復させてくれているということ、自然治癒力と臓器など体の機能を確実に働かせるつながりを説明できる手がかりを今まで私たちは掴んでこなかった。ここでこのつながりが見つけられれば、自然治癒力の力強さを説明できるはずである。
 
自然治癒力は「酵素」が働くから確実に役割を実行できる
「酵素」といえば、消化酵素ならなじみがある。
炭水化物を消化する酵素はアミラーゼ
たんぱく質を消化する酵素はペプシンとトリプシン
脂質を消化する酵素はリパーゼ
 
これぐらいのことは中学、高校で習うのであるが、では消化とはどんなことをすることだろうか。切り刻んで小さな分子にすることである。ここまでは常識だろう。しかし、体の中には包丁もなければ、石臼もない。胃は酸性の強い胃液を出す。食べたものは胃液に溶かしている。
 
それでは、胃液の中に溶けた栄養素、たとえばタンパク質を取り出すときはどうやって取り出すのだろうか。ここまでくると大学程度のレベルの化学の問題になる。要するに食材の形のものを体内という36.5度Cという常温で化学変化を起こして、物資の変換を行っているのである。化学の実験を思い出してほしい、化学変化を起こさせるときは高温か高圧の中でやっと化学変化を進行させることができる。人体の中は、常温(体温の状態の中)で1気圧程度の通常圧の中で、いとも簡単に、生物の消化器官はものすごい量の化学変化を日常的に実行しているのである。
 
その働きを促進しているのが、3種類の消化酵素である。「炭水化物はグルコース」に、「タンパク質はアミノ酸」に、「脂肪成分は脂肪酸」に変化させている。分子量、数万~数百万の物質を数十~数百の小単位の物質に変えている。難しいことはこの程度にして、このすごいこと、つまり「化学変化」の一切を無言で実行させているのが「酵素」なのである。正しくいうと、酵素は化学変化を触媒として働いている。つまり、化学変化を起こさせる誘導役を担っている。
 
消化酵素のほかに「酵素」はどんなことしているか?
(1)体のエネルギーを全て作り出して、人体が活動できるようにしている。
(2)体の細胞は全て古い細胞を捨て去り、常に新しい細胞で置き換えていることはよく知られている。これを「新陳代謝」という。酵素はこの作用の一切の実行に関わっている。
そのほか(3)酵素は臓器、組織の遺伝子の修復作業の全てに関わっている。この作用は、「自然治癒力」そのものである。
さらに、(3)有害物質の除去にも酵素は働いている。
こうして、酵素は人体の各器官の働きを説明する「生理学」の全ての働きに関わっている。「酵素」の働きによって人体の生理活動はすべて進められている。
 
では「酵素」は人体のどこに蓄えられ、どこで働いているのだろうか?
最初に触れた消化酵素は、人の消化器官で働いている。これは簡単に理解できる。では、エネルギーはどこで作られ、どこに貯蔵され、どのように運ばれ、どのように消費されているだろうか。
 
「エネルギーはどこで作られるか」の回答は、人体の全ての細胞でエネルギーは作られている。全ての細胞にミトコンドリアという道具の保存庫がある。そこで必要に応じて酵素が作られ、20種類の酵素が順番に働いて炭水化物から作られたグルコースを材料にして、「アデノシン2リン酸」という物質に作ったエネルギーを背負わせて「アデノシン3リン酸」にする。
 
「アデノシン3リン酸」からリンを1つはずすとエネルギーが放出される。
つまり、「アデノシン3リン酸」が蓄電池のよな働きをしている。パワーオンにして電流が流れる状態にすると、「アデノシン3リン酸」は化学変化でエネルギーを出して「アデノシン2リン酸」になる。この形で取り出されたエネルギーはその場で消費される。全身60兆個の細胞にエネルギーを作り出す機能がある。動物におけるエネルギーの生成と消費は、作る場所で即消費される「地産地消」である。
 
なぜ人の体温は36.8度Cでしょうか?
酵素が最も活性化するのは36.8度である。従ってもっとも酵素が働きやすい温度で、人の体温を決めている。つまり体温は「酵素」が決めている、ということができる。ここまで分ってくると人体の生理活動、生命活動は全て酵素の働きによって支えられている。つまり「自然治癒力」も「酵素」が働いているから、いつまでも、きちんと働いてくれるというわけである。そしてこのことを確信をもって言うことができる。ここまで酵素の働きがわかってくると自然治癒力も確信を持って説明できる。
 
酵素についてもう一つだけ補足したい。
まず、酵素はどのようにして生産されるか。小さな細胞の中で、血液で運ばれてきたアミノ酸(タンパク質の小分子)から作られる。食事でたんぱく質を必要量をとっていれば酵素を作る材料が不足することはない。つまり体内を流れているアミノ酸の配給が不足しない限り原料素材が不足することはない。また、酵素を作る設計図は各細胞が持っている遺伝子の中にある。材料も設計図も全て、1つの細胞の中に整っている。
 
健康生活を守るのは自然治癒力と免疫の力が両輪
これまで、自然治癒力を考えてきたが、健康を守るのには自然治癒力だけでは少し力不足ではないかと感じる面は多い。もっと早く治りたいのに手間隙かかる。自然治癒力に少しでも効果的に働いてもらうためには病気にならないようにすることも必要だと考える。それは病気が発症状しないように免疫力を高めることも重要ではないだろうか。
 
一般に「病気にならないように免疫力を高めよう」という言い方をよく聞く。免疫システムの働き方は多くの説明が必要なので、働き方の説明は別の機会にすることにして、ここではあまり世間では話題にされていないところ、「免疫システムの中で「情報」がどのように流れて、免疫システムを完璧に働かせているか」について、いくつか紹介しておきたいと思う。
 
免疫は緻密な情報システムで動かされている
免疫の基本は、外敵が侵入して来たら、それを抹殺して撃退することである。ということは、これは外敵であるか、身内であるかの判断が最初に必要である。
「この細胞は身内であることを証明すらためにすべての細胞は自分という目印を持っている」。その目印を手がかりに違った形の目印を持った細胞を外敵であると確認して攻撃することを決める。
免疫の働きは「2度なし現象をきちっと果たす」ことで知られている。前に侵入した敵の姿をよく覚えておいて、それが2度目に現れたら体内に入る直前で撃滅するという仕組みが働くというのである。この2度なし免疫の仕組みを、「獲得免疫」と呼んでおり、自己と違う外敵はならば何でも殺しにいこうとする免疫の担当者は「自然免疫」と呼ばれている。免疫システムはこの2つの柱で働いている。
 
「獲得免疫」は2度目のときでないと、役目を果たさない。1度目はどうしているのか。1度目のときも獲得免疫は、働くのであるが、獲得免疫の体制を作って撃退能力ができるまでに大体6日ほど要する。この6日ほどの準備期間で攻撃態勢が出来上がれば、それ以後は2度なし免疫と同等の免疫が実行されるのである。その準備期間の6日間も、免疫は何もしないのではなく、先ほどの「自然免疫」の外敵ならばすべて食い殺す仕組みが戦っていて、被害が大きくならないように食い止めている。しかし自然免疫の陣容はやや手薄な準備しかできていないので、強い外敵がきたときは感染症など発症を許してしまう可能性も存在する。
 
免疫システムは6種類以上の細胞が役割分担をして働いている
自然免疫には概ね4種類(マクロファージ・樹状細胞・好中球・NK細胞)の細胞がある。働きは①外敵発見(樹上細胞・マクロファージ)②貪食(食い殺す)(マクロファージ・NK細胞)の働きを分担する。
NK細胞はナチュラルキラー細胞と言い、がんを倒す働きがあることでも知られる。
獲得免疫で働くのはB細胞とT細胞の2種類の細胞であるがいろいろな役割を担うのでその時々で肩書きを変えて仕事をする。獲得免疫の基本の仕組みは、過去に侵入してきたことがある外敵に大量の防衛部隊を組んで敵を撃退することである。使う武器は「抗体」という弾丸で、侵入した外敵(細菌)に組み付いて身動きできないようにして殺してしまう。その抗体を作る細胞が「B細胞」という免疫細胞である。
 
B細胞は歩兵部隊で、その指揮をとる細胞が「T細胞」という細胞である。つまり、B細胞はT細胞の指示命令を受けて専ら抗体を作り、抗体は外敵(抗原ともいう)と結びついて、外敵の力を弱める働きをする。B細胞の一部は外敵の顔つきを記憶する「メモリーB細胞」としても働く。
 
T細胞は外敵は「こんな形」をしているという情報(抗原提示)を受け取り、1度目か2度目かの判断をしてB細胞に抗体を作れの指示をする。T細胞は外敵の形を記憶する「メモリーT細胞」の働きも、またT細胞は外敵がウイルスの場合は抗体が働けないのでウイルスに組み付く「キラーT細胞」の働きもする。
獲得免疫で働くT細胞はB細胞へ情報を出したり、過去に侵入してきたすべての外敵の顔を一つ一つ記憶しているなど、膨大な情報を発信したり受信したりする。さながらT細胞は情報センターの働きをしている。ここで流れる情報は、「情報伝達物質」として小型のたんぱく質が用いられている。
 
自然治癒力の働きに意識を向けた生活を心がけてほしい
これまで、自然治癒力と免疫システムの情報伝達を中心に、人体内の自動調節システムについてほんのわずかな部分ではあるが、その働き方を考えてみた。これらの記述で、自然治癒力は大変に完備したシステムで誰にもきちっと働いていることを伝えられたと思うがいかがだろうか。このような言い方は分子生物学による方法で日頃なじんでいる健康論はとはちょっと違って着眼点で解明されている。このやり方にご興味持っていただけただろうか?
でもまだ、もう1つの別の疑問が残っている。それはこの完備した自然治癒力が働いているのにどうして私たちは病気になるのだろうか?
これについて納得できる回答がなければ、「自然治癒力中心主義を受け入れることはできない」ということになるだろう?
でもこの答えは次のように言うことができる。私の日常生活で「自然治癒力の働きに逆らうことを気づかぬうちにしてしまっている」ということである、その代表例が、この小文の冒頭の「副作用のある薬の常用」である。「副作用のない薬はない」ことを知っているのに習慣的に薬を多用していませんか?
 
さらに言えば、私たちは、仕事に追われ、生活に追われ健康によくないと思われることを無神経に「してしまっている」ことである。この小文をここまで読んでいただいた方は、日ごろのあまり考えたり意識することなく健康によくないことをしていることに気づかれたのではないでしょうか?「できるだけ注意を払い、そこに意識を向けて生活していただくことが肝要と思うばかりである。