幻冬舎グループの作品投稿サイト

読むCafe
 

きれいなこころ

江見幸司


約 12372

海ちゃんは元気な男の子。この前、四歳のお誕生日を迎えました。海ちゃんには、二歳の妹がいて、名前を空ちゃんといいます。海ちゃんは、お父さん・お母さん、そして、空ちゃんと四人家族で、楽しい毎日を送っています。

 

海ちゃんは、保育園に行っています。そして、保育園から帰ったら、家のとなりにあるお寺で遊びます。土を集めて、海ちゃんの基地を作ったり、木にいる虫をつかまえたりします。海ちゃんは、このお寺で遊ぶことが楽しくてたまりません。

 

今日は、空ちゃんといっしょに、お寺に来た海ちゃん。仲良く兄妹で遊ぶのかな?。

 

少し風があって寒かったので、空ちゃんが鼻水をたらしています。海ちゃんは、ティッシュを取りだし、空ちゃんに渡しました。

「空ちゃん、お鼻を拭いて」

空ちゃんは、海ちゃんからもらったティッシュでお鼻を拭きました。でも、その後がいけません。空ちゃんは、お鼻を拭いたティッシュをポンと捨ててしまいました。

「空ちゃん、ダメ!。ゴミはゴミ箱に入れないと!」

「ごめんなさい」

空ちゃんはティッシュを拾って、ゴミ箱に入れました。海ちゃんは、「よくできたね」と空ちゃんの頭をよしよしします。

「こんにちは」

お寺の人が声を掛けました。

「こんにちは!」

海ちゃんも空ちゃんも、大きく元気な声であいさつしました。

「元気な子たちですね。お名前は?」

「ぼくは海ちゃん。こっちは、妹の空ちゃんだよ」

「海ちゃんも空ちゃんも良い子ですね。心がきれいです。きっと幸せになれますよ」

「どういうこと?」海ちゃんが聞きました。

「海ちゃんも空ちゃんも、大きな声で、元気

良くあいさつができたでしょう。それに、ゴミをゴミ箱にちゃんと捨てましたね。小さいのに素晴らしいです。そういう素晴らしい人は、心がきれいで、幸せになれるんですよ」

「ふ~ん」

海ちゃんも空ちゃんも、よく意味が分かりません。でも、お寺の人にほめられて、二人とも、にっこり笑顔になりました。

 

家に帰ると、いいにおいがしてきます。お母さんが夕食を作っています。

「お母さん、このにおいはカレーだね!」

海ちゃんはカレーが大好きです。お母さんのカレーは甘くてとてもおいしいんです。海ちゃんは空ちゃんに言いました。

「空ちゃん、今日はカレーだよ!。空ちゃんも好きだよね!」

「うん!」

二人とも、お母さんのおいしいカレーに大喜びです!。

 

お父さんが仕事から帰ってきました。家族みんなで夕食です。お母さんの作ったおいしいカレーをみんなで食べます。とてもおいしいので、みんなにこにこ笑顔。海ちゃんはおかわりまでしました。

 

夕食が終わった後、海ちゃんは、お父さんとお母さんに言いました。

「今日ね、お寺の人に、ぼくと空ちゃんは、心がきれいだから幸せになれるって言われたんだ。それってどういうこと?」

「あら、良いことを言われたのねぇ」

お母さんが、うれしそうに言いました。

「海ちゃんと空ちゃんは心がきれいなんだ。お父さんはそう思うよ。心のきれいな人は幸せになれるように、神様がお空の上から見守ってくれているんだよ」

「神様が見守ってくれているの?」

「そうだよ、海ちゃん。心がきれいだと、神様がそれをちゃんと見ていて、そのごほうびとして、神様が幸せをくれるんだよ」

「じゃあ、お父さんとお母さんは幸せ?」

海ちゃんが聞きました。

「お母さんは幸せよ。お父さんがいて、海ちゃんと空ちゃんがいて、家族仲良く暮らしているでしょ!。それだけで、お母さんはとっても幸せよ」

「お父さんも幸せだよ。大好きなお母さんがいる。そして、大好きな海ちゃんと空ちゃんがいる。お父さんは、それだけで、毎日が本当に幸せなんだ」

お父さんもお母さんもにっこり笑顔です。

海ちゃんが聞きました。

「じゃあ、お父さんもお母さんも心がきれいってこと?」

「う~ん、それはむずかしいなぁ」

「お母さんも、自分の心がきれいかは分からないわ」

「でも、幸せなんでしょ?」

海ちゃんが聞きます。

「幸せなのは本当だよ。お母さんも幸せなんだと思う。だって、大好きな人たちと、毎日いっしょに暮らしているんだからね。でも、心がきれいかとなると、むずかしいなぁ」

「でも、今日、お寺の人は、海ちゃんと空ちゃんの心がきれいだから、幸せになれるって言ったよ。お父さんとお母さんは幸せなんでしょ。だったら、お父さんもお母さんも心がきれいなんじゃないかな?」

「海ちゃん、それは、お父さんの言う通り、本当にむずかしいことなの。心はどこにあるのかな?。心がきれいって何色をしてるのかな?。心って目に見えないからむずかしいのよ。お父さんもお母さんも幸せって言ったけど、幸せも目に見えないでしょ。目に見えないことは、本当にむずかしくて分からないことだから。そうだ!。お母さんはこう思うわよ。明日、またお寺に行くでしょ。その時にお寺の人に聞いてみたら?」

「うん、ぼく、そうする!。お寺の人に、よく聞いてみるよ!」

海ちゃんの目はうきうきと輝いています。

 

その夜、海ちゃんは夢を見ました。海ちゃんが大人になっている夢です。海ちゃんはスーツを着て、バリバリ仕事をしています。保育園で同じクラスの、大好きなみよこちゃんが、海ちゃんの奥さんになっていました。そして、海ちゃんに子供が三人いました。海ちゃんは、その夢の中で、幸せだなぁと言っています。夢の中の海ちゃんをよく見ると、紫色に光っています。これが心の色なの?。海ちゃんの夢は本当にふしぎですね。

 

次の日、海ちゃんは、いそいで保育園から帰ってきて、お寺に行きました。お寺の人を見つけた海ちゃん。

「こんにちは!」

「おや、海ちゃん、こんにちは。今日も大きな声で元気なあいさつができましたね。海ちゃんは本当に心がきれいですね」

「いっぱい聞きたいことがあるんだけど、いい?」

「いいですよ。私が答えられることならば、しっかり答えますよ」

「あのね、心ってどこにあるの?。そして、きれいな心の色って何色なの?」

「おやおや、むずかしいことを聞いてきますね」

お寺の人は、にこにこしながら言いました。

「心は、体のどこにでもあります。心は見えないから、体にないように見えますが、体の全てに心はあります。そして、きれいな心の色は人によって違います。赤色の人もいれば黄色の人もいます。海ちゃんは何色でしょうか?」

海ちゃんは、その時、昨日の夜見た夢を思い出しました。

「ぼくね、昨日の夜、夢を見たの。その時、夢の中のぼくは、体中が紫色に光っていたんだ。ぼくのきれいな心は紫色なのかな?」

お寺の人はにこにこしています。

「おそらく、海ちゃんのきれいな心は紫色なのでしょう。そして、体中が光っていたということは、心が体中にあるということです。海ちゃんの夢の中で、海ちゃんのきれいな心が、体中で紫色に光ったのでしょう」

「ぼくのきれいな心は紫色なのかぁ」

「紫色は神様の色と言われています。海ちゃんのきれいな心が、神様にもほめられる素晴らしいものですから、紫色なのだと、私は思います」

 

その時、空ちゃんがてくてくやってきました。

「こんにちは!」

「こんにちは、空ちゃん。今日も大きな声で元気良くあいさつができましたね。空ちゃんも、海ちゃんといっしょで、心がきれいですね」

海ちゃんが、また聞きます。

「今、空ちゃんの心もきれいって言った?」

「ええ、言いました」

「じゃあ、空ちゃんのきれいな心は何色なの?。そして、空ちゃんのきれいな心も体中にあるの?」

「空ちゃんのきれいな心も体中にあります。でも、空ちゃんのきれいな心の色が何色かは分かりません。海ちゃんと同じ紫色かも知れないし、赤色、いや、黄色かも知れません」

「空ちゃんのきれいな心の色が分からないのに、なんで、空ちゃんの心はきれいって分かるの?」

海ちゃんがそう聞くと、お寺の人はにっこり笑いました。そして言いました。

「じゃあ、私から、海ちゃんと空ちゃんに質問してもよろしいですか?」

「うん、いいよ」海ちゃんが言いました。

「お馬さんの話しをします」

「え~、ぼくは、おさるさんが好きなんだよ!」

「空ちゃんもおさるさんがいい!」

「では、おさるさんの話しをしましょう」

「やったー!」二人は大喜びです!。

「おさるさんが山で倒れています。とても苦しそうです」

「大丈夫?。おさるさんは大丈夫なの?」

海ちゃんと空ちゃんは心配でなりません。

「そのおさるさんをよく見てみると、おなかが大きくなっています。どうやら、おさるさんの赤ちゃんが生まれるみたいです」

「赤ちゃん!」空ちゃんが言いました。

「でも、おさるさんは元気がなくて、赤ちゃんを産めそうにありません。海ちゃん、空ちゃん、おさるさんを助けてあげてください」

海ちゃんが大きな声で言います。

「ぼくは、いっしょうけんめい応援するよ。

頑張って!、頑張って!、おさるさん!。元気がモコモコ、力が出るよ!って、赤ちゃんが生まれるまで応援する!」

「空ちゃんは、お母さんにおいしいカレーを作ってもらって、おさるさんに食べてもらうの。お母さんのカレーを食べて元気になってもらう。そうしたら、おさるさんは赤ちゃんを産めるよ」

お寺の人は、にっこり笑いました。

「海ちゃんと空ちゃんのおかげで、おさるさんは元気になって、赤ちゃんを産むことができました!」

「やったー」二人は大喜びです!。

「赤ちゃんは元気?」

空ちゃんが聞きました

「おさるさんもおさるさんの赤ちゃんも、とても元気です。さて、ここで、二人に質問します。おさるさんが元気になって、元気な赤ちゃんを産めたのはだれのおかげですか?」

「う~ん」二人は困っています。

お寺の人が、また、にっこり笑いました。

「海ちゃんと空ちゃんのおかげですよ。海ちゃんは大きな声でいっしょうけんめい応援しました。空ちゃんは、お母さんのおいしいカレーを食べさせてあげました。そのおかげでおさるさんは元気になって、赤ちゃんが産めたのです」

「ぼくと空ちゃんのおかげ?」

「そうですよ。二人がおさるさんを助けてあげたのです。本当に二人は心がきれいです」

海ちゃんがふしぎそうな顔をしました。

「おさるさんを助けてあげれば心がきれいなの?」

「そうです。だから、海ちゃんも空ちゃんも心がきれいなのです」

「でも、今のうそのお話しでしょ?」

「そうですね。うそのお話しと言われたら、そうかも知れません。でも、そのうそのお話しでも、海ちゃんと空ちゃんはいっしょうけんめいおさるさんを助けました。そういう心をきれいな心というのです」

「空ちゃんは、お母さんのお皿洗いを手伝ってるよ」空ちゃんが言いました。

「やっぱり、空ちゃんは心がきれいです。たくさんの人や動物を助けてあげる気持ち。この気持ちを持っている人は心がきれいなのですよ」

「助けてあげることが、きれいな心?」

海ちゃんが聞きました。

「そうです。助けてあげる気持ちがきれいな心です。きれいな心ではない人は、今のおさるさんの話しでも、おさるさんを助けませんよね。うその話しでも、いっしょうけんめいおさるさんを助けてあげた海ちゃんと空ちゃんは心がきれいなのですよ」

お寺の人は、にっこり笑顔です。

「海ちゃんと空ちゃんに良い言葉をお教えしましょう」

「良い言葉?」

「思いやり。思いやりという言葉は、自分のためでなく、人のためにいっしょうけんめい助けてあげるという気持ちです。海ちゃんと空ちゃんは、その思いやりを持っています。思いやりは、きれいな心の人しかもっていません」

「思いやりかぁ」

海ちゃんは、なにか分かったようで、にこにこしています。

「お父さんとお母さんに教えてあげる!。ありがとう!」

「ありがとう!」

空ちゃんも大きな声で元気良くあいさつしました。

二人は、手をつないで、走って家へ帰って行きます。お寺の人は、にこにこ笑いながら、海ちゃんと空ちゃんの背中を見ていました。

 

家に帰って、お母さんのおいしい夕食をすませると、海ちゃんは、お父さんとお母さんにおさるさんの話しをしました。

「お父さんは、おさるさんを家に連れて帰って温かい毛布でくるんであげる。そして、赤ちゃんが生まれるまで応援するぞ」

「お母さんは、おいしい料理をたくさん作ってあげて、おさるさんにいっぱい食べてもらうわ。おいしい料理をたくさん食べたら、おさるさんも元気になるでしょ!」

海ちゃんはとってもうれしそうでした。

「お父さんもお母さんもきれいな心だよ!。

だって、思いやりがあるから!」

お母さんはびっくりしました。

「海ちゃん、思いやりなんて言葉をよく知ってるわね。すごいじゃないの」

「今日、お寺の人に教えてもらったんだよ。思いやりのある人は心がきれいだって!。ぼくも空ちゃんも思いやりがあるから、心がきれいなんだよって言われたの!」

海ちゃんは、得意そうな顔で話しました。

 

お母さんが空ちゃんを呼びました。

「海ちゃん、空ちゃん、そこに座って」

「は~い」二人は座りました。

お母さんはゆっくり話し始めました。

「お母さんは、海ちゃんと空ちゃんを、おさるさんと同じくらい苦しい思いをして産んだの。お母さんは、ごはんをいっぱい食べて、元気に海ちゃんと空ちゃんを産みたかったのよ。でも、少し、元気がなくて。その時に、お父さんがいっしょうけんめい応援してくれたの。お母さん、頑張って!って。そして、海ちゃんと空ちゃんは元気に生まれたの。だから、お父さんは、心がきれいなのよね。お父さんにおれいを言いましょう」

「ありがとう」

お母さん、海ちゃん、そして、空ちゃんは、大きな声でおれいを言いました。

 

すると、お父さんが言いました。

「海ちゃん、空ちゃん、お父さんはお仕事に行ってるだろ。だから、海ちゃんや空ちゃんが赤ちゃんの時は、お母さんがいっしょうけんめい二人のことをしてくれたんだよ。お母さんも心がきれいだよね。海ちゃん、空ちゃん、お母さんにもおれいを言おう!」

「ありがとう」

お父さん、海ちゃん、そして、空ちゃんは、大きな声でおれいを言いました。お母さんの目には涙がうっすら浮かんでいました。

海ちゃんがにこっと笑いました。

「これで、みんなが、心がきれいということになったね。ぼくたちは、家族全員、幸せになれるんだね!。ぼくはうれしいな!」

「空ちゃんもうれしい!」

空ちゃんはそう言って、お母さんに抱っこしてもらいました。

 

海ちゃんは、小さいながらも、幸せな家族の中にいて、幸せという目に見えないものが少し分かったようですね。

 

その夜、海ちゃんは、どうしても見たいテレビがありました。ですが、海ちゃんの寝る時間は過ぎてます。海ちゃんはお母さんに聞きました。

「テレビ見てもいい?」

「海ちゃん、寝る時間でしょ。テレビはだめよ」

海ちゃんは、お父さんにも聞きました。

「お父さん、テレビ見たい!」

「海ちゃん、寝る時間だろ。海ちゃんの寝る時間は八時って約束。約束を守らなかったらせっかくのきれいな心が、きたない心になって、幸せがなくなっちゃうぞ」

「きれいな心がなくなっちゃうの?。幸せが飛んでいっちゃうの?」

「そうだぞ。思いやりも大切だけど、お父さんやお母さん、保育園の先生の言うことを聞かないと、きれいな心がきたなくなって、幸せがなくなっちゃうんだぞ」

「本当?」

「あぁ、本当だ。明日、お寺の人に聞いてごらん」

海ちゃんは、きれいな心をなくしたくないと強く思い、すぐにふとんに入りました。

 

次の日、お寺で、海ちゃんは、また、お寺の人に質問しています。

「きれいな心はなくなったりするの?」

お寺の人は真剣な顔をしました。

「はい。そうです。きれいな心は、なくなることがあります」

「きれいな心がなくなったら、どうなっちゃうの?」

「幸せが飛んで行って、なくなってしまいます」

「昨日ね、ぼくは、お父さん・お母さんと約束した寝る時間を守らず、テレビを見ようとしたんだ。でも、お父さんに、約束を守らなかったら、きれいな心がきたなくなって、幸せがなくなると言われた。だから、ぼくはすぐに寝たよ」

「お父さんの言うことは正しいです。いくらきれいな心を持っていても、約束を守らない悪い人は心がきたなくなって、幸せが逃げていってしまいます」

「ぼくのきれいな心は大丈夫?」

お寺の人はにっこりと笑いました。

「大丈夫です。テレビを見たいと思ったのでょうけど、ちゃんと寝る時間を守って寝たのですよね。それならば、海ちゃんの心はきれいなままです」

海ちゃんは、ほっとして、はぁと息をはきました。

「きれいな心がきたなくなるって本当?」

「本当ですよ。いくらきれいな心を持っていても、どんどんきたなくなっていくし、また逆に、どんなに心がきたなくても、どんどんきれいになることもあるのです」

「それはどんなとき?」

「きれいな心がきたなくなるのは、お父さんが言ったような約束を守らない時や、昨日の話しのような思いやりをなくした時です」

「じゃあ、きたない心がきれいになるのは、どんなとき?」

「守らなかった約束を守るようにした時や、人のために、いっしょうけんめいになった時です」

 

海ちゃんはこの前の保育園での出来事を思い出しました。

「この前ね、ぼくがブランコの順番を待っていたら、もも組さんの男の子が、順番を飛ばしてブランコをしたんだ。この男の子は、心がきたなくなってしまったの?」

「そうです。その男の子の心はきたなくなったでしょうね。順番を守ることは、保育園の先生に言われていますよね。先生の言ったことを守れない人は、心がきたなくなり、幸せが飛んでいってしまいます」

「じゃあ、どうしたら、ずっと心がきれいなままでいれる?」

「私は、海ちゃんには、もっともっときれいな心になってほしいと思います。今でも心はきれいですが、どんどん良いことをして、もっともっと心をきれいにしてほしいのです」

「ぼくは、もっともっと心をきれいにして、もっともっと幸せになりたい!。どうすればいいの?」

「お父さん・お母さん、保育園の先生に言われることを、ちゃんと守ってください。そして、良い子になってください」

「分かった!」

海ちゃんは大きな声で言い、お寺の人と強く握手しました。

「それと、海ちゃん」

お寺の人が、海ちゃんに、もう一言言いました。

「ブランコの順番を守らなかった男の子に、順番を守りましょうと注意しましたか?」

「その男の子、体が大きくて、強いんだよ。だから、注意できなかった」

「海ちゃん、そんな男の子にも、しっかり、順番を守りなさいと注意できれば、きれいな心はもっともっときれいになります。これからは、約束を守らない子や、悪い子には注意してください」

「分かった!」

 

海ちゃんは、一回り、強くなって、大人になったようです。おそらく、また心がきれいになり、新しい幸せをつかんだのでしょう。

 

海ちゃんは、それから、約束をしっかり守るようになりました。テレビを見る時間・寝る時間を、ちゃんと守りました。また、お父さんやお母さんの言うことをしっかり聞き、お手伝いも頑張りました。そして、空ちゃんを大切な大切な妹としてやさしくしました。保育園では、悪い子を注意し、先生の言うことを守りましょうと、みんなに呼び掛けました。海ちゃんの心はどんどんきれいになっています。その証拠に、お父さんとお母さんの笑顔が増え、空ちゃんが泣かなくなり、家の中は、幸せがたくさんたくさんでした。お父さんは部長さんになり、お母さんは、料理コンテストで優勝しました。海ちゃんが良いことをして、良い子になればなるほど、家の中が明るくなり、素敵になっていきました。

 

きっと、海ちゃんの心がどんどんきれいになって、家の中に幸せを連れてきているのでしょうね。

 

海ちゃんが一番うれしかったことは、お父さん、お母さん、空ちゃんの笑顔が増えたことです。海ちゃんが良い子になればなるほどみんなの笑顔が増えていきました。海ちゃんは、みんなの笑顔を見ることが大好きになりました。そして、小さいながらも、幸せとはこういうことを言うんだと分かったのです。

 

一か月が経ちました。海ちゃんは良い子にしていて、心はどんどんきれいになっています。海ちゃんの心がどんどんきれいになるから、良い報告が届きました。

「海ちゃん、空ちゃん、今ね、電話があってね、こうちゃんとよっちゃんが遊びに来るって!」

お母さんから聞いて、海ちゃんも空ちゃんも大喜び!。海ちゃんにとって、こうちゃんとよっちゃんは、大人の大きなお友達です!。海ちゃんは、何をして遊ぼうか?と、もう考え始めました。

空ちゃんが聞きました。

「こうちゃんとよっちゃんはいつ遊びに来るの?」

「あと三回寝たら、遊びにくるよ」

「楽しみだね!、空ちゃん」と海ちゃん。

「うん」と、空ちゃんは大きな笑顔です。

 

三回寝て、こうちゃんとよっちゃんが、遊びにきました。海ちゃんも空ちゃんも走って抱きつきに行きます!。

 

その時、こうちゃんが言いました。

「海ちゃん、心がどんどんきれいになってるんじゃないか?」

「えっ?。こうちゃん、心がきれいなことが分かるの?」

海ちゃんは驚いています。

「俺だけじゃないよ。よっちゃんも、海ちゃんのきれいな心が美しく光っているって分かってるよ!」

「こうちゃんもよっちゃんも、お寺の人に聞いたの?」

「俺たちは、お寺の人に聞いてないよ。海ちゃんの顔を見たら分かるんだよ。心がきれいか、きたないかがね」

「どうして?、どうして分かるの?」

海ちゃんは、ふしぎでなりません。

こうちゃんがテレビをつけました。ニュースをしています。ニュースでは、どろぼうが捕まったことをアナウンサーさんが言っていました。どろぼうの写真がテレビに映っていました。

「海ちゃん、テレビに映っている人の顔、どう見える?」

こうちゃんが聞きました。

「怖そうな顔だね。悪いことをしてそうだ」

「海ちゃん、その通りだよ。この人はどろぼう。どろぼうは悪いことだよね。悪いことをした人は怖い顔になるんだよ。そして、悪いことをしたから、心がきたなくなって、顔が白っぽいでしょ?」

「本当だね」

海ちゃんは、怖がりながら言いました。

「心のきたない人は、まず怖い顔になるんだよ。怖い顔になったら、笑顔がなくなるでしょ。だから、赤いほっぺがなくなって、白っぽい顔になるんだよ」

「じゃあ、海ちゃんは赤いほっぺ?」

こうちゃんは、にっこり笑いました。

「海ちゃんは赤いほっぺだよ!。心のきれいな人はにっこり笑顔ばかりだから、赤いほっぺで、顔がきれいな赤色になるんだ。海ちゃんの顔がきれいな赤色だったから、また、どんどん心がきれいになっていると、俺もよっちゃんも分かったんだよ」

「海ちゃんは、きれいな赤色の顔をしてるわよ!。わたしは、海ちゃんのそんな素敵な顔が見られて幸せよ!」

よっちゃんが、うれしそうに言いました。

 

こうちゃんとよっちゃんは、海ちゃんと空ちゃんにプレゼントをくれました。海ちゃんには電車のおもちゃ、そらちゃんにはお人形さんです。二人はプレゼントに大喜び!。

「ありがとう!」

海ちゃんと空ちゃんが大きな声で、元気良くおれいを言いました。

その時、よっちゃんが、

「やっぱり、海ちゃんと空ちゃんは心がきれいね」と言いました。

「なんで?」海ちゃんが聞きました。

よっちゃんは、にこっと笑いました。

「海ちゃんも空ちゃんもプレゼントをもらったら、ちゃんとありがとうっておれいが言えたでしょう。そんなあいさつがしっかりできる人は心がきれいなのよ!」

「あいさつができると心がきれいなの?」

「そうよ、海ちゃん。朝起きたらおはよう。昼はこんにちは。寝るときはおやすみ。そういう当たり前のあいさつができるって本当に素敵なことなの!。今頃は、あいさつのできない大人も多いからね。海ちゃんと空ちゃんはきちんとあいさつができるから、わたしはね、二人の心はきれいだなぁって、前から思っていたのよ」

よっちゃんは、とても気持ち良さそうです。あいさつをしてもらうって、本当に心が気持ち良くなりますものね。

「こんなに心がきれいな子供が二人もいて、本当に幸せね!」

よっちゃんがお母さんに言いました。

お母さんは、にっこり笑顔で、海ちゃんと空ちゃんをやさしく見ています。

 

こうちゃんとよっちゃんは、こんな幸せな家族が見れて、うれしかったのでしょうね。そして、うらやましかったのかも知れませんね。

 

海ちゃんと空ちゃんは、こうちゃんと電車のおもちゃで遊びました。でも、少し、海ちゃんの様子がおかしいかな。いつもは、空ちゃんを押しのけてでも、こうちゃんと遊びたがるのに、今日の海ちゃんは、しずかに、空ちゃんとこうちゃんが遊ぶのを見ています。

「海ちゃんもいっしょに遊ぼうよ!」

こうちゃんが誘いました。でも、海ちゃんは

「空ちゃんと遊んであげて」

と、さみしそうに言うだけです。

こうちゃんは、海ちゃんを抱っこして、お外に出ました。お外は、もう真っ暗で、きれいな星が輝いています。

「海ちゃん、なんで俺と遊んでくれないのかな?」

「だって、空ちゃんがいるから」

「いっしょに遊んだらいいじゃん!」

「ぼくはお兄ちゃんでしょ。だから、空ちゃんが楽しく遊べるようにしてあげないといけないんだ」

「でも、今日の海ちゃんは、元気がないよ」

「だって、こうちゃんと遊びたいんだもん。でも、きれいな心になるには、お兄ちゃんのぼくはがまんして、妹の空ちゃんに楽しんでもらわないといけないんだよ」

海ちゃんは、がまんができなくなり、とうとう泣きだしてしまいました。

こうちゃんは、海ちゃんの頭をなでなでしながら、こう言いました。

「海ちゃん、お空を見てごらん。きれいな星がいっぱい輝いているよ」

海ちゃんは、お空を見上げました。

「海ちゃん、お空の星は心がきれいだと思うかな?」

「光っているから、きっときれいな心だと思う」

「俺も海ちゃんが言うとおり、そう思うな。だけどさ、すごく明るく光っている星とぼんやり光っている星があるよね」

「うん」

「そのちがいはなんだろうね?」

「すごく明るく光っている星は、心がすごくきれいなんだよ。ぼんやり光っている星は、心がきたないのかなぁ」

海ちゃんは、星を見つめながら言いました。

「俺はそう思わないな。光っているということは、どの星も心がきれいだと思わない?」

「う~ん、こうちゃんの言うとおりかも知れない。でも、だったらどうして、明るさがちがうのかなぁ?」

こうちゃんは、にっこり笑って、海ちゃんの顔を見ました。

「俺はこう考えるよ。すごく明るく光っている星は大人の星。ぼんやり光っている星は子どもの星じゃないかなぁ」

「大人の星と子どもの星?」

「そうだよ。人間にも、大人と子どもがいるでしょ。そう考えたら、星さんにも、大人と子どもがいるんじゃないかな?」

「そうだね」

「大人の星は、心がすごくきれいだから、すごく明るく光っている。子どもの星は、心がちょっとだけきれいだから、ぼんやり光っている」

「えっ?。そうなの?」

「そうじゃないのかなぁ」

こうちゃんは、そう言うと、にっこり笑顔になりました。

こうちゃんは、海ちゃんに言います。

「海ちゃんは、大人の星になろうとしてないかな?」

「ぼくは星じゃなくて人間だよ」

「そうだね。でも、海ちゃんは、大人の星のすごいきれいな心になろうとして、無理をしてないのかな?って、俺は思うんだ」

「どういうこと?」

「海ちゃん、海ちゃんは子どもの星のように少しだけ心がきれいだったらいいんだよ。海ちゃんは子どもだからね。子どもの海ちゃんが大人の星のように、すごいきれいな心になろうとしたら、子どもの海ちゃんの心はカゼを引いてしまうよ」

「心もカゼを引くの?」

「カゼを引くよ。子どもの海ちゃんが背伸びして、大人のすごくきれいな心をなろうとしたら、心が疲れちゃって、カゼを引いちゃうんだよ。熱も出るし、せきも出るよ」

「カゼはしんどいからイヤ!」

海ちゃんは、カゼでしんどくて、何日もふとんの中にいたことを思い出しました。

「海ちゃん、子どもの星のように、少しだけ心がきれいな人になってみたら?」

「どうすればいいの?」

「お手伝いをしたり、約束を守ったり、空ちゃんと遊んであげたりするのは、そうすればいいよ。でも、どうしても見たいテレビがあったら見ればいいし、空ちゃんよりも遊びたいと思ったら遊んだらいいんだよ」

「でも・・・」

「海ちゃん、でも・・・、なに?」

「そうしたら、心がきたなくならない?」

こうちゃんはにっこり笑いました。

「海ちゃん、海ちゃんの心は、今でもすごくきれいなんだよ!。少しぐらい心がきたなくなっても大丈夫!。きっと子どもの星も少しは心がきたないと思うよ!。少し心がきたなくなったら、またお手伝いや、約束を守ったりして、どんどん心をきれいにしたらいいんだよ!。海ちゃん、子どもらしいきれいな心を大切にしようよ!」

「子どもらしいきれいな心?」

「そう!。カゼを引かないように、子どもらしいきれいな心を手に入れよう!」

「うん!。分かった!」

海ちゃんの笑顔が子どもらしい、本当にかわいい笑顔になりました!。

 

海ちゃんは、本当に良い子です。でも、時々わがままを言って、みんなを困らせます。

だけど、そんな海ちゃんを、みんな、大好きです。だって、海ちゃんは、子どもらしいきれいな心を持っているのですから。

 

今日も、海ちゃんは、子どもらしいかわいい笑顔をふりまいて、みんなの人気者になっています!。

 

海ちゃん、いつまでも、子どもらしい良い子でね!。

 

〈終わり〉