夢判断と宝くじ
牛路田 獏
約 1597
先日、入れ歯を落として慌てて口に戻す、という気持ち悪い夢を見た。
私は自慢じゃないが、歯に関しては健康優良児で、虫歯もなければすべての歯が揃っており、抜けているところすらない。
というわけで、何とも目覚めが悪すぎる上、強烈な印象ゆえ鮮明に覚えていたので、すぐにパソコンで夢判断をした。私はずいぶん前から夢判断を当ててきたのだ。夢判断については真逆の説明が多く、なかなか当たらないものだが、今回調べたところ様々なサイトの夢判断で、この夢は「人に騙される」、という一致した予知夢だった。
私は即、「しまった、宝くじ買ってしまったのに、これは騙されていたんだ!」と思った。
ということは全国の宝くじファンの皆さん、君たちはいつも騙されているのだ。
「産まれて初めて宝くじ買ったんだよ!」
と、ミスドの常連、たーさんが嬉しそうに言った。
「あ、私も買ったよ!たーさんは連番で買ったの?バラ?私はバラで買ったけど」
「たーさんはね、1枚買った」
私は速攻でテーブルから滑り堕ちそうになった。
夢が大きいのは良いが、なんぼ何でも、1枚じゃ300円すら返ってこないかもよ、と言ったら、たーさんは、
「そーなの?」
と不思議そうな顔をした。
「一攫千金もダメか」
「すごーく、確率は低くなるけど、もし当たったら他の人に口外しないほうがいいよ」
こんな会話をしたばかりである。
そして、たーさんの宝くじは300円すらあたらず、私のバラ10枚は300円だけ払い戻された。1億円当たる(かも)と宣伝されていたのに、300円だった。騙された。
抽選日が来るまでは、マンションを買うためにいくつもの情報を集めるのにいそしみ、これという部屋に決めてからは、靴の底までもきれいに磨いてくれる引っ越し会社を探し、図書室を作れるようにオーダーメイドの書棚の寸法を測ったし、寝室はウィリアム・モリスの壁紙を貼る予定であった。こんなに仕事のことをほっぽりだして、様々な計画を練っていたのに、私の計画は阻害され騙された。この時間を返せ。と言ったら「夢を買っただろう」と言われた。あの悪夢が夢なら返してやる!
ところが今日、携帯電話に不審なメールが入った。頭にはdocomoと書かれていた。しかしよく見るとメルマガなどに登録した覚えのない会社で、その文章には、
「おめでとございます!100万円の抽選に当たりました!つきましては下記のURLをクリックして、登録をしてください」
とあった。クリックしてみたら「ニックネームとパスワードを入力してください」と書いてある。
100万円もらうのに、なぜニックネームが必要?パスワード?どう考えてもヘンだ。
実は私、今を遡ること20年ほど前に、いきなり多数の出会い系サイトから携帯にメールが送られてきて、なんと20万円近くを騙し取られたことがある。この手の怪しいメールはパソコンに送られてくることはなく、どれも携帯なのだ。
このメールを受けて、私は100万円をちらつかせるサイトに、これこそ夢判断の警告だと悟った。「騙される」!
これはまずい!私はマンション構想を払いのけ、即、配信停止するよう設定をした。すると、向こうも負けじとさらに「100万円の権利がなくなるがそれでもいいか」と問いただしてきた。
「いいんだってーの!これ以上何か言ってくるのなら消費者センターに繋ぐぞ」
と答えたら、詐欺師もさすがに引き下がった。もう、その手には乗らないぜ。
翌日たーさんにこの話をしたら、もったいなくないのかと訊かれた。
1億っていう数字なら明らかに怪しすぎるが、手頃な100万円のほうが相当、怪しい。
そして次の日、ミスドからの帰りがけに、私はロト6を買いに行った。
もう、騙されないからね。一回騙されたところだから、2億円あたるんでしょ?
夢判断は間違っていないはずだ。