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貞奴、文化大使に|女優、貞奴 幾重にも花を咲かせ、咲き乱れて生きた麗人。(10)

だぶんやぶんこ


約 1144

1900年1月末、ついに、ワシントン到着。

駐米公使、小村寿太郎が、にこにこ手を振り迎えた。

「待ちかねていました。安心して、すべて任せて欲しい」と苦労をねぎらう。

びっくりするような豪華なホテルの客室が、宿所となる。

ここから客人待遇でもてなされ、天国の日々が始まった。

日本の誇る文化人としてアメリカ在住の日本人に紹介され、アメリカ政財界人との懇親会など外交の場にも出席する。

思えば、昨年9月ボ-トで、東京を離れて、1年5ヶ月の月日が経っていた。

(さだ)(やっこ)は、数々の苦労が走馬灯のように頭の中でめぐり落ち着かない。

だが、音次郎は、文化人そのものに、見事に変身していた。

(さだ)(やっこ)の美しさに目を奪われた小村寿太郎は、マッキンレーアメリカ大統領を大使館に招き、日本舞踊の美しさを見せつけ日本文化の水準の高さを誇りたいと話す。

(さだ)(やっこ)も最大級の褒め言葉だと感激し「いいですよ。日本の誇る芸をお見せましょう」と応えた。

貞奴にも音次郎の思いが乗り移り、日本の美の体現者、芸術家になりきった。

大統領の前で自信たっぷりに踊る。

すでに女優としての自覚は出来ており、堂々とした日本からの文化大使だった。  

この頃から、川上一座一同「日本を代表する芸人になったんだ。海外巡業に出てよかった」と笑顔があふれる。

次いで、ニューヨークに移る。

すべての手配が滞りなく進められており、演劇に打ち込めた。

興行的にも大成功だった。

胸を張って精力的に、劇場視察、演劇学校を回る。

アメリカのすべてを吸収すると二人は顔を見合わせ燃えた。

異郷の地で日本を想う政財界の要人は、(さだ)(やっこ)の演じるはかない日本女性の姿に涙し、喜んで後援する。

こうして、ニューヨークでの二か月に及ぶ長期公演を成し遂げ、一流の劇団としての待遇を得る。

興行収入も予想以上で、団員の顔がほころんだ。

そして、音二郎の目指す本命、花の都「パリ万博」での大成功を信じ、パリに向けて出発する。

音次郎は、今まで培った芸の集大成とすると、勝負をかける。

貞奴は、日本で培われ誇る芸で勝負し、日本の文化を見せつけると張り切る。

公使(後の外務大臣)、小村寿太郎から、大統領、マッキンレーに日本を代表する女優として紹介され、そのような待遇を受けた。

そして、それに相応しい芸を見せた。

紛れもなく、日本の文化大使になったのだ。

そんな場面を何度も何度も思い出しながら、時にはにやっとしながら、船旅を楽しむ。