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占い猫パトロール その1
失恋した。 4年近く付き合った彼からのメールや連絡の返しが遅くなり、返信の頻度も少なくなり、最後に会った日から2カ月経ったころ待つことに疲れてしまった。そして待ちくたびれ、自分の気持ちが[ 続きを読む ]
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父との思い出福島コンテスト入賞作品
朝、会社の社長室のブラインドを開けて、私の1日がスタートする あたたかな朝陽がこぼれるように部屋に差し込んでくる 私は福島市土湯温泉で30数年を過ごした 車で土湯温泉の坂を下りると、2つ[ 続きを読む ]
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SAYONARA FUKUSHIMA福島コンテスト入賞作品
「この街に愛着も湧かないし何の未練も無い。」と彼女はつぶやいた。その寂しそうな横顔がしばらくの間、頭から離れなかった。 信夫山は福島市の中央に南北を分断する状態で鎮座する、周囲7km程の[ 続きを読む ]
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空の向こうに第一回小説コンテスト入賞作品
プロローグ 昼間は暑さで陽炎すら立ち上るアスファルトも、夜になるとすっかり冷え切って、昼の暑さが嘘のように感じられる。むしろ、ちょっと風が強い日は長袖を一枚羽織りたくなるときすらある。 仙台駅の地[ 続きを読む ]
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スーパーマン 第一回小説コンテスト入賞作品
(1) その街には〈怪物屋敷〉と呼ばれる、古くて、不気味なたたずまいの洋館があった。 屋敷の門や壁には蔦がびっしりと生え、庭には得体の知れない植物がうっそうと生い茂っている。 かなり以前から、この家[ 続きを読む ]
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天下への契り 第一回小説コンテスト入賞作品
一 弘治二年(一五五六)五月—— 篠つく雨のなか、数人の小姓を従えたひとりの騎馬武者が街道を駆け抜けていく。 六尺近くの大躯を持ち、豊かな顎髭を蓄えたいかつい面構えは、荒武者と呼ぶに相応しい風貌で[ 続きを読む ]
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小さな街のストーリー
東京から岩手に移り住んで、間もなく9年目を迎える。 11月を引越しの日と決めたのは、冬の寒さをまず体験して、覚悟を深くするためだった。 当たり前のように見られるダイヤモンドダストに感動し、目玉が凍みる[ 続きを読む ]
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風土は語る
北海道の帯広から岩手県を訪ねてみたいと思ったのは、三陸海岸にある大槌町浪板の丘に立つ、「風の電話」を創った男に会ってみたいと思ったからである。 大槌町は、東日本大震災で壊滅的な被害を受け、人口の10%[ 続きを読む ]
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落ち葉とノラ・ジョーンズ
私がflyfishingという渓流釣りに出会ったのは5年前。ちょうど職場の人間関係に疲れていた時期に、関連会社から出向してきた男性と会社を出るタイミングが一緒になって、なんとなく飲みに行ったのが始まり[ 続きを読む ]
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車椅子の男
日本の伝統芸能である落語を人前でしゃべることを生業にしている私ではあるが、趣味は洋楽を中心としたロック鑑賞。おかげで音楽業界で数多くの知己を得た。中には暴力的なイメージが強いパンクロックなる音楽を三十[ 続きを読む ]
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蕪島の朝
貯金箱が小銭でいっぱいになったので、蕪嶋神社再建の募金に行くことにした。三月十二日。数年前の、津波が襲って来たあの日の翌日にあたる朝だった。 津波は石段で留まり、蕪島神社の社殿は被害を免れた。八戸市民[ 続きを読む ]
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青森エッセイ
青森。青森県。青森市。そう言えば一度ならず二度ほど青森県にはお世話になっていた。 ひとつはカウンセリングで。もう一つは仕事で。二度目は八戸だったが、あれも青森県に間違いはない。 青森市に行った時、正直[ 続きを読む ]